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zoom RSS 神奈川近代文学館:須賀敦子の世界展

<<   作成日時 : 2014/10/27 01:04   >>

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須賀敦子さんは、初め、私を遠い世界に連れて行ってくれる人だった。
時を経るにつれ、己の生き方を、その深遠な問題について、考えさせられる機会を、与えてくれる人となった。
いずれにせよ、私にとっては、尊い導き手である。




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秋晴れの一日、神奈川県立近代文学館で開催中の、『須賀敦子の世界展』を訪ねた。

陽光降り注ぐ横浜山手の、港のみえる丘公園から一歩館内に入ると、そこはあまり静謐な、しかし外界とは違う種類の光がさすような、別世界が存在していた。
入客が途切れず居るにもかかわらず、あんなにも静かな展覧会を、私は初めて体験した。
訪ねた人達が皆、須賀さんの言葉を一言も洩らさず掬おうとしているかのように、自身は言葉も音も発っさずに、展示に向かい合っていた。



私たちが新たに触れることができた須賀さんの言葉。
それが手紙の数々である。

エッセイや評論においての須賀さんの文章は、研磨され精査を受けたような、細やかで知的な言葉で構成されている。
私などは読みながらうっとりとしてしまう程、整えられた文章。
しかし受け止めかたによっては、硬く鋭く怜悧、と感じるむきもあるかもしれないと思うこともある。

手紙は違う。
青い万年筆で書かれた、丸みが印象的な柔らかな文字。
綴られた言葉は、易しく、そして優しい。
それでいて美しい。
水を飲むようにするすると流れこんでくる文章。
こんな手紙を受け取ったら、思わず笑みがこぼれてしまいそうな。
自身の本のこと、信仰のこと、病のこと、そうした自己の想いを表現しつつ、伝わることに心を砕き、相手を慮る文章。
伝えること、表現することに、いかに須賀さんが腐心していらしたか、別の角度から光をあてられた気がした。
同時に、単なる手紙に留まらない、真摯で知性的な記述の数々を目にして、私自身の日常にひき比べ、漫然と時間消費してゆくだけの過ごし方を省みさせられる。
最早私もただただ知者から享受ばかりはしていられない年代だが、須賀さんの文章という鏡に写した私自身の姿は、恥ずかしきことのみ多かりき、という気持ちにならざるをえない。

正直なところ、文章を発するにあたり推考に推考を重ねたであろう須賀敦子さんの、手紙や日記を目にすることには躊躇いがあった。
ご本人はその内実を晒すことを、どう考えていらっしゃったのだろうか。
しかし躊躇いながらも新たに触れた、須賀さんの世界の深さ豊かさにまた、改めて陶然たる感慨を抱く。
その生き方を遥かに仰ぎ見ながら、自身の足元を一歩一歩踏みしめていかねば、という気になる。

手紙以外にも、須賀敦子さんを像作ったであろう世界の記録が並んでいて、魅入ることの多い展示だった。
70年の過去への旅。少女時代の須賀さんを取り巻く世界。
10000kmの距離の旅。学生時代、結婚期の須賀さんが吸収したはずの世界。
ことに私にとっては既に懐かしい、ヴェネツィアの河岸、トリエステの坂、そしてミラノのコルシア書店、それら写真の数々の前には、いつまでもたたずんでいられる気がした。




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気付けば、会場で二時間余りも過ごしていたらしい。
建物を出た時には、港のみえる丘公園に注ぐ日射しも、一段柔らかになっていた。




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『須賀敦子の世界展』は、神奈川近代文学館にて
2014年11月24日まで開催中。
神奈川近代文学館のサイトは→ こちら




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     Oct14    横浜市/神奈川県



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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
しばらくです。その間にずいぶんと文章が変わったように思いますが何かありましたか?
かおたいまきしん
2014/11/13 21:55
>かおたいまきしんさん
長らく失礼してしまい、申し訳ありません。
ご体調いかがでしょうか。ご快復を願っております。
私はおかげさまで元気にあわただしく過ごしておりますが、時間の使い方を考え始めるようになったかと思います。
なお
2015/09/22 21:34

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